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修行中会員オスカルさん

最初の作品は、アラサー既婚女子の葛藤を描いたフィクションです。

決まったルーティーンのような日常の中で、心に火がつくことがある。

残り火 第1章 第4話


第1章 第4話 ふたり

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海沿いのタワーマンション。

 

桜雅の家は11階だ。

 

「お邪魔します」

 

「ねぇ、先生、帰りにこれ。持ってってね」

 

桜雅の家には、水曜と土曜の週2回来ている。

 

水曜は午後5時から7時まで、土曜は午後3時から5時までだ。

 

土曜はきまって、母親から手作りのおかずやお菓子をお土産として渡される。

 

今日は何だろう。大きなタッパーだ。

 

「いつもすいません」

 

「松田先生痩せすぎだもん、もっと食べないとダメよ~?痩せすぎも、妊活には良くないみたいよ」

 

勝手に私が妊活中だと思い込んでいる。

 

「じゃ、桜雅呼んでくるからね」

 

彼の勉強は、いつもリビングで見ている。

いくら私が30を超えた女でも、息子と二人っきりにはしたくないらしい。

 

この母親が、おかしな想像をしているのだと思うと吐き気がした。

 

「…おはよー」

 

2階から降りてきた桜雅は、さっき起きたばかりのような顔をしていた。

 

母親は、キッチンでコーヒーを淹れている。

 

妊活妊活って言うなら、ノンカフェインの飲み物を出すべきだ。

 

 

桜雅がテキストを開くのと同時に、インターホンが鳴った。

 

「はぁ~い」

 

母親の甲高い声。

 

桜雅が、シャーペンの芯をカチカチと出しては戻し、また出しては戻す。

 

イラついたときのクセだ。

 

1か月も通っていればわかるが、桜雅は母親のことを相当嫌っているようだった。

 

 

 

「ちょっとママ、お隣に行ってこなくちゃなんだけど大丈夫?」

 

何が大丈夫なのだろうか。

 

「すぐ帰ってくるからね。先生ごめんなさいね」

 

エプロン姿のまま、母親は隣人の家に駆けて行った。

 

 

1ヶ月ここに通って、初めて2人きりになる。

 

 

 

 

 

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残り火 第1章 第3話


 

ファミレスにいたのは、同じクラスのヒロヤとナオミ、あともう1人、知らない子だった。

 

「マリエ会ったこと無かったっけ?」

 

オレはそのマリエって子のほうを見た。

 

髪は黒髪のロングで、バッチリメイクが制服には合ってないが、目が大きくてモテそうだ。

 

「去年そっちの文化祭行った時、ちょっとしゃべったんだけど…覚えてないっかぁ」

 

そうだっけ、と言いながら、ヒロヤにLINEでメッセージを送る。

 

 

“いつものとこいくか”

 

 

「…てかさ、食ったら漫喫いかね」

 

メッセージをみたヒロヤが切り出す。

 

「ウチはいいけど、マリエどうする?」 

 

ナオミの誘いに、マリエも頷く。

 

 

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「…ヒロヤも知ってるの?」

「なにが?」

 

漫喫では、2つのブースにわかれた。

 

「3人でご飯食べてて、オーガくんから電話きて、来るってなって…そしたらナオミに言われた」

 

「なんて?」

 

少し俯いたあと、マリエが言った。

 

「喰われるよ、って」

 

オレは何も言わず、マリエを見つめた。

 

「文化祭、オーガくんに会いたくて行ったの」

 

深呼吸をして、心を決めたマリエが話し出す。

 

 

「文化祭で会う前から好きなの」

 

 

たいして話したことも無いのに、好きになれるなんて凄い。

 

マリエの頭を撫でてやった。

 

泣きそうな、嬉しそうな、よくわからない顔をしている。

 

 

隣のブースから、律動が伝わってくる。

 

マリエもそれに気づいて、顔を紅くしている。

 

「…ナオミとヒロヤって付き合ってるのかな」

 

 

オレたちも付き合う?

 

 

そう言われたいんだろうか。

 

「こっちおいで」

 

見た目も良くて、勉強も出来て、家は金持ち、しかも、優しい。

 

女の子からそんな風に見られてることは知ってる。

 

 

ちゃんとオレは自分のことを知ってる。

 

 

本当は、そんな奴じゃないってことも知ってる。

 

たいして話したことも無いこの子を、オレは抱けるんだ。

 

 

 

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残り火 第1章 第2話


第1章 第2話 桜雅

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「ねぇ、松田先生いつ帰ったの?」

 

「さっき」

 

「パパと電話してたときに帰ったの?!やーだもう、先生に挨拶しそびれちゃったわね」

 

 

そう言いながら何も気にしていない様子で、続けて話し出した。

 

「ねぇ、来月からもっとお願いする?週に2回じゃなくて、3回にしたら?」

 

「いや2回でじゅうぶんでしょ」

 

「大丈夫なの?まあ大丈夫よね、おーちゃんなら。でももしもっと来てもらいたければママがお願いしてあげるからね」

 

 

勝手に話を完結させるのが得意な母親。

 

 

「ねぇ、パパ今日も遅いの。会食とかなんとか言って」

 

 

何も答えず夕食のミネストローネを啜る。

 

 

「ねぇ、おーちゃん。まず、大学入って、それからパパの会社に入って、素敵なお嫁さんもらって、パパの後継いで…」

 

 

またその話。

 

 

 

俺の将来は終わっている。

 

 

どうせ終わるなら、もっと早く。

 

 

自分の手で終わらせたっていいかもしれないと思うぐらいに。

 

 

 

「ねぇ、おーちゃん聞いてたの?おかわりは?」

 

「いい」

 

 

食べかけの皿をそのままにして立ち上がる。

 

「ちょっとファミレスで勉強してくるから」

 

「そうなの?早めに帰ってきてよ?パパより先に帰ってきてよ?」

 

 

 

家を出てすぐにiPhoneをひらく。

 

住宅街の暗闇に、街灯とスマートフォンの光が揺れ動く。

 

 

『出んの早っ。なにしてた?』

 

 

同じクラスのヒロヤに電話をかけると、すぐに繋がった。

 

『今飯食ってた。ナオミとかと。くる?』

 

『行くわ。腹減ってっから』

 

 

 

勉強道具をひとつも持たずに家を出ても、母親は何も気付かない。

 

 

何も、気付かない。

 

 

 

 

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オスカル
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文学・書物
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2018-06-16
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